「この作業、あの人しかできない」――そんな状況が職場にありませんか?属人化とは、特定の人しかできない仕事が増えてしまい、組織全体のリスクや非効率を生む状態を指します。放置すれば、急な退職や長期休暇が発生した際、業務が回らなくなる大きなリスクとなります。そこで重要になるのが、「マニュアル整備」です。今回は、属人化を防ぎ、誰でも業務を引き継げる組織をつくるためのマニュアル作成・運用の極意を、実践的にご紹介します。
目次
- なぜ属人化は怖いのか?マニュアル整備の必要性
- 属人化を防ぐマニュアル整備術①:完璧を目指さず“8割”でOK
- 属人化を防ぐマニュアル整備術②:手順だけでなく“背景”も書く
- 属人化を防ぐマニュアル整備術③:“更新しやすい形式”で作る
- 属人化を防ぐマニュアル整備術④:活用・改善を習慣化する
1. なぜ属人化は怖いのか?マニュアル整備の必要性
属人化の問題は、単に「忙しい人が偏る」だけではありません。以下のようなリスクを孕んでいます。
- 特定の人が辞めると業務がストップする
- 知識やノウハウがブラックボックス化し、改善できない
- 新人教育に時間がかかりすぎる
- 他の人が手伝えず、チームの生産性が下がる
特に中小企業では、一人ひとりの役割が大きいため、属人化が進むと経営そのものに直結する問題になります。だからこそ、今から「誰でもできる状態」を作る努力が必要です。マニュアルを整備することは、未来のトラブルを未然に防ぎ、組織を守るための“自己防衛策”でもあるのです。
2. 属人化を防ぐマニュアル整備術①:完璧を目指さず“8割”でOK
マニュアル作成に踏み出せない理由の一つは、「完璧を目指してしまう」ことにあります。すべてを網羅しようとすると、膨大な労力がかかり、途中で挫折してしまうのです。そこでおすすめなのが、“まずは8割”を目指すやり方です。つまり、
- 基本的な流れ
- 抑えるべき重要ポイント
- よくあるミスと注意事項
この3点に絞って最初のバージョンを作ること。細かい例外やイレギュラー対応は、運用しながら少しずつ加筆・修正していけば十分です。「まず作る→運用する→育てる」というサイクルを回すことが、属人化を防ぐマニュアル整備の現実的な進め方なのです。
3. 属人化を防ぐマニュアル整備術②:手順だけでなく“背景”も書く
よくある失敗は、「作業手順だけ」を羅列したマニュアルです。それでは、少しでも状況が違えば応用がきかず、「結局本人に聞かないと分からない」という事態になります。そこで重要なのは、なぜこの手順を踏むのか、この作業がどんな意味を持つのかという“背景”まで一緒に書くことです。
たとえば、
- 申請書の提出期限は「月末5営業日前」→(理由)承認フローに時間がかかるため
- 発注ミスを防ぐため「必ずWチェック」→(理由)在庫管理に直結し、営業機会を損なうリスクがあるため
背景や意図を伝えることで、マニュアル利用者が状況判断できるようになります。応用力が育つことで、自然と属人化は解消へ向かいます。
4. 属人化を防ぐマニュアル整備術③:“更新しやすい形式”で作る
どんなに立派なマニュアルを作っても、すぐに陳腐化してしまっては意味がありません。現場は日々変化しているからこそ、**マニュアルは「作ること」より「育てること」**が大事です。そのためには、「誰でも簡単に更新できるフォーマット」で作ることが鉄則です。
具体例としては、
- WordやGoogleドキュメント形式でシンプルにまとめる
- 手順ごとに箇条書きで記述し、差し替えやすくする
- 更新履歴を残しておき、誰が・いつ修正したか記録する
また、ファイル名に「作成日」「最終更新日」を明記しておくと、現場でも迷わず最新版を使えます。管理しやすい工夫こそが、属人化防止につながります。
5. 属人化を防ぐマニュアル整備術④:活用・改善を習慣化する
マニュアルを“置き物”にしないためには、定期的に活用し、改善していくことが不可欠です。
具体的には、
- 新人教育にマニュアルを積極的に使う
- 異動や配置換えの際にマニュアルレビューを行う
- 半年に1度、全員で「マニュアル改善会議」を開催する
このような「見直す・更新する」文化を根付かせることで、マニュアルは常に最新化され、現場に根付いていきます。特に重要なのは、マニュアルを作った本人以外がレビューに関わること。これによって、「誰が読んでも分かるか」がチェックでき、属人化しないマニュアルへと進化していきます。
まとめ
属人化は、企業にとって大きなリスクであり、成長の妨げにもなります。しかし、完璧を目指さず、実践的なマニュアル整備をコツコツと進めることで、誰もが仕事を引き継げる強い組織をつくることができます。まずは「8割のマニュアル」を作るところから始めましょう。背景を伝え、更新しやすい形に整え、日々の運用に根付かせる。この地道な積み重ねが、属人化を防ぎ、組織力を高める確かな一歩になります。次回のテーマは「OJTで終わらせない教育の仕組み」を予定しています。