
どんなに売上が好調でも、現金(キャッシュ)がなければ会社は立ち行きません。特に中小企業にとって、キャッシュの管理は「生き残り」と「成長」の両方に直結する最重要テーマです。
しかし、現場では売上や利益に意識が向くあまり、キャッシュフロー管理が後回しになっているケースも少なくありません。そこで今回は、中小企業が確実にキャッシュを守り、育てていくための基本的な考え方と具体的な管理方法を5つにまとめてご紹介します。
目次
- なぜ中小企業にキャッシュ管理が重要なのか
- 中小企業のためのキャッシュ管理法①:資金繰り表を「毎月」更新する
- 中小企業のためのキャッシュ管理法②:売上よりも回収サイトに目を向ける
- 中小企業のためのキャッシュ管理法③:支払い条件を見直してキャッシュアウトをコントロールする
- 中小企業のためのキャッシュ管理法④:運転資金の目安を把握しておく
1. なぜ中小企業にキャッシュ管理が重要なのか
企業経営において、最も怖いのは「黒字倒産」です。これは、帳簿上は利益が出ているのに、手元のキャッシュが不足して資金ショートを起こしてしまう現象です。特に中小企業は、大企業と違い銀行交渉力も低く、資金調達手段も限られているため、キャッシュの枯渇が即・経営危機に直結します。
また、キャッシュが十分にあるかどうかは、緊急時の耐久力にも大きな差を生みます。新型コロナウイルス禍のような予期せぬ経営環境の激変時、手元資金に余裕がある企業は冷静に対応できましたが、キャッシュが薄い企業は一気に経営危機に追い込まれました。
つまり、キャッシュ管理とは「今を生き延びるための管理」であり、「未来に攻めるための準備」でもあるのです。
2. 中小企業のためのキャッシュ管理法①:資金繰り表を「毎月」更新する
キャッシュ管理の第一歩は、資金繰り表を作成し、定期的に更新することです。資金繰り表とは、毎月の入金予定と出金予定を一覧にまとめたもの。未来の資金の流れを「見える化」するツールです。
作成するときのポイントは次の通りです。
- 入金予定(売上入金、借入金、助成金等)を具体的に記載する
- 出金予定(仕入、給料、家賃、税金等)も細かく記載する
- 最低でも3か月先まで見通しを立てる
これを毎月見直すことで、「どの月に資金が不足しそうか」「何にお金がかかりすぎているか」を事前に把握できます。問題が早期にわかれば、対策(借入、支払い延期交渉など)も取りやすくなり、資金ショートを防ぐことができます。
3. 中小企業のためのキャッシュ管理法②:売上よりも回収サイトに目を向ける
売上がどれだけ伸びても、現金化されなければ意味がありません。特に注意すべきなのが、「回収サイト(入金までの日数)」です。
たとえば、売上が伸びたとしても、入金まで90日かかる取引ばかりだと、資金繰りはどんどん苦しくなります。逆に、売上額は小さくても、即日・月末〆翌月払いなど早期入金ができる取引先が多ければ、キャッシュは健全に回ります。
したがって、回収サイトを常に意識し、
- 可能なら回収サイトを短縮交渉する(60日→30日など)
- 入金が遅れる取引先には督促をルール化する
- 売掛金管理を徹底し、未回収をゼロに近づける
といった取り組みが必要です。売上だけを追うのではなく、「いつ現金になるか」という視点で営業戦略を組み立てることが、キャッシュ管理には不可欠です。
4. 中小企業のためのキャッシュ管理法③:支払い条件を見直してキャッシュアウトをコントロールする
キャッシュを守るためには、出ていくお金(キャッシュアウト)を賢くコントロールすることも大切です。そのためには、仕入先・外注先との支払い条件を見直すことが有効です。
たとえば、
- 買掛金の支払いサイトを延長交渉する(30日→60日)
- 分割払い・リース契約を活用して一括支出を避ける
- 割引を受けられない限り、無理に早期支払いをしない
などの工夫が考えられます。支払いを引き延ばすことはマナー違反と捉えられがちですが、双方が合意していれば正当な交渉です。むしろ、中小企業が自社を守るためには必要な手段とも言えます。
キャッシュアウトを遅らせることで、手元資金に余裕が生まれ、急な支出にも耐えられる経営体質になります。
5. 中小企業のためのキャッシュ管理法④:運転資金の目安を把握しておく
「どれくらいキャッシュを持っていれば安心か?」という基準を明確にしておくことも重要です。一般的な目安は、「月商の2~3か月分」と言われます。
たとえば、月商が1,000万円の会社なら、2,000万~3,000万円の手元資金を確保できていれば、ある程度のトラブルにも耐えられます。
この運転資金目安を把握したうえで、資金が不足しそうなときは、
- 早めに借入を検討する
- 設備投資を後ろ倒しにする
- 売上より利益重視の戦略に切り替える
といった経営判断を行います。「借りなくても借りておく」戦略も重要です。資金繰りが厳しくなってからでは、銀行融資のハードルは高くなるため、キャッシュに余裕があるうちに備えておくことが鉄則です。
まとめ
中小企業にとって、キャッシュ管理は単なる財務テクニックではありません。それは、会社の“命綱”を守る経営戦略そのものです。
資金繰り表を活用し、回収と支払いのタイミングを賢く設計し、必要な運転資金を常に意識する。この地道な努力の積み重ねが、強い財務体質をつくり、未来への投資チャンスを確実に手にすることにつながります。
今日から、キャッシュ管理を「後回しにしない会社」を目指して動き出しましょう。
次回のテーマは「半期で振り返る目標と進捗管理」を予定しています。